大阪高等裁判所 昭和25年(う)2918号 判決
刑事訴訟法第三百三十五条第二項に法律上犯罪の成立を妨げる理由というのは、法律上犯罪の不成立に帰すべき原由たる事実上の主張の意義に解すべきものであつて刑法第三十五条又は第三十六条第一項等に該当する事実を主張する場合が之に該当する。何となれば犯罪の構成要件たる事実は常に必ず証拠に依り之を認めた理由を説明することを要するから、たとえその犯罪成立の要素を欠如する旨の事実上の主張があつても、苟も有罪の言渡をする以上その主張は自ら之を排斥したこと明瞭であるので、かかる主張に対して更に判断を示すの必要がない。之に反し犯罪の成立要素以外の事実であつて法律上犯罪の不成立を来す原由たる事実上の主張があつたときは単に有罪の言渡をなすに必要な理由の説明があつたのみでは未だ直ちにその主張の当否を判断したものということができないから、法律は特に之に対して判断を示すの要あるものとしたのである。従つて単に犯罪構成要素の欠如を理由とする事実上の主張の如きはつまり犯罪事実の否認であつて、いわゆる法律上犯罪の成立を妨げる理由に該当しない。所論の傷害事実の否認は強盜傷人罪の構成要素の欠如を主張するもので単純な犯罪事実の否認に外ならないから之に対し判断を示さなかつた原審の措置は正当であるのみならず、原判決は被告人に対する強盜傷人罪の成立を認めているのであるから自ら右主張を排斥したことが明らかである。 (後略)